命を守った人たち

オミクロン株出現で、再びコロナに翻弄される日常に舞い戻らないとは言い切れません。この厄介なウイルスにどこまで対抗出来るのかという課題に対して、今のところ未だ答えが出ていません。ようやくコロナの恐怖から解放され、普通の生活に戻ることが出来ると期待していた矢先の新型コロナの出現。不安や落胆を感じている人も少なくないと思われます。

今後の世界がどのような方向に向かうのか、はっきりしたことは誰にもわからないと思いますが、初めてコロナが出現した後、世界はこれにどのように立ち向かってきたのでしょうか。良く分からないままに、そんなものかと受け止めてきた幾つかの「ナゼ」について資料を元に答えを探してみました。

その結果、今日に至るまで、壮絶なドラマが繰り広げられていたことを知りました。中でも感動したのはワクチン開発、製品化に携わってきた研究者の情熱と良心です。そうしたものがなかったら、我々はいまだに更に悲惨な状況におかれていたことでしょう。将来への示唆となるかもしれない出来事として今後の参考になれば幸いです。

① なぜ薬を1つも出したことのないベンチャー企業(ビオンテック/モデルナ)が効果抜群のワクチンを開発、提供できたのか。
・mRNA(メッセンジャーRNA:ウイルスのたんぱく質を作るもとになる、遺伝子情報)が医療を変える可能性のある重要な分野であると信じ、実用化に向けて30年近く前から研究を進めていた。
・カタリン・カリコー博士(ハンガリー出身女性、現ビオンテック上席副社長)はmRNAの研究のため、アメリカのペンシルバニア大学に赴任。開発には資金が必要だが、なかなか成果に結びつかず、当初大きな関心を示していた資金提供者達も次第に興味を失っていった。上司からも他の分野の研究に移るか、降格のどちらかを選択するよう言い渡される。そのような状況下にも拘わらず、mRNAは多くの人類を救済できるとの信念に基づき、降格を受け入れ研究を続けた。この信念と情熱がなければ、有効なワクチンがこんなにも早く作られ、世に出ていたかどうか疑問。
・モデルナもビオンテックも開発が失敗したら、経済的にも信用面でも大打撃を受けるというリスクを冒して進行中の開発案件を全て中止。コロナワクチンの開発、製造に全精力を投入することを決断した。

② ワクチンの開発に10年はかかると言われていたが、なぜ1年で世に出すことが出来たのか。
伝統的ワクチンは、対象となるウイルスを特定し、培養し、不活性化するといった開発プロセスを経る為長い時間がかかる。mRNAワクチンはそれを省けるばかりでなく化学合成出来るので量産化スピードも速い。(ワクチンとは、体に入ってきた悪いウイルスを免疫システムに事前に教える薬。そのため、従来は病原性を弱めたウイルスや、ウイルスを構成するたんぱく質を精製したものを使用。一方mRNAワクチンはウイルスたんぱく質そのものではなく、トゲ(スパイクたんぱく質)に的を絞りその設計図を体内に届け、自分でたんぱく質を作ってもらう仕組みをとる。)
・最初に武漢のコロナ患者の肺から採取した体液を調べ、ウイルスの遺伝子構造を解析した中国人、チャン教授がオーストラリア人の同僚に促されてそのデータを世界に向けて公開したこと。(2020.1月)そのおかげで世界中の専門家がワクチンの開発に一斉に取り掛かることが出来た。
・通常、ワクチンの製造は治験(人体に有効で、無害であることの検査)で問題がないことを確認出来て初めて始まる。コロナの影響は測り知れず、また全世界の人々の命に係わるものであったので、製薬会社と協力して治験と製造を同時並行で進めた。医薬品会社にとっては、巨大なリスクがあるが(治験に問題があった場合、製造してしまったワクチンや、製造工場が無駄になる。)米国政府がそのリスクを引き受けることを約束した。

③ なぜ、mRNAの開発に30年も要したのか。
・mRNAが免疫システムの過剰反応を引き起こすため、実験に使ったマウスはことごとく死に、初期の頃は死体の山が出来てしまった。途方に暮れていたカリコー博士が1つの研究論文に出会い、ここに示唆された方法を試してみた。mRNAは4つの構成成分で構成されるが、そのうちウリジンと呼ばれる物資が免疫の過剰反応を誘発することがある、という内容であった。そこでカリコー博士はウリジンをほぼ同一の代替物質に入れ替えたところ免疫攻撃の問題は解決された。
・ベンチャーキャピタルは成功しそうなベンチャー企業には大金を投じるが、治験段階への資金提供には消極的。製薬会社も多くの人に長期的に投与される薬でないと資金供給を渋る傾向。(「死の谷」と呼ばれる)公的部門も画期的研究の初期段階には積極的資金提供を行うが、研究実証の開発段階では支援が細る傾向。規模の小さなテックベンチャーが常に直面する財政上の障壁。

今回参考とした資料:Newsweek日本語版、厚生労働省ホームページ、日経新聞、FINANCIAL
TIMES,BUSINESS WARS(pod cast)等。特にBUSINESS WARSは大いに参考とさせてい
ただきました。

オミクロン対策にも有効と思われること。(以下は上記を踏まえた推測です)
・変異があっても、当該スパイクたんぱく質の設計図を解析ができれば既存ワクチンの有効性検証や新規ワクチン開発可
・mRNAは、4つの構成成分で構成される。アルファ株から変異したデルタ株に対してもmRNAは有効であった。
・コロナに対して世界中で知見とknow howが蓄積されている。(上記2社以外にもオックスフォード大学とアストラゼネカ、ビオンテックと組んだ製薬会社ファイザー、ジョンソン&ジョンソン、その他製薬会社もワクチンのみならず医薬品を開発しつつある。
・新たなワクチンを作る場合でも、既存施設の転用が可能で、時間をかけて新たな製造施設を一から作らなければならないという時間との戦いを回避できる。