ロシア兵糧攻めの帰結

歴史上幾多の戦いにおいて、流血を伴わず勝敗を決する方法として兵糧攻めが多く使われました。敵の城を取り囲み、立てこもる敵方の食料が尽きて降服するのを待つというものです。ロシアのウクライナ侵攻に際して、米欧日がロシアに対し、武力を行使せずどのように対処できるのか世界が見守ってきました。今回の国家間争いにおいて、兵糧に変えて同じような効果を果たしたのがカネであります。


過去の国家間の争い開始時には、物資の供給を止めるというのが常套手段でした。この方法だと効果が出るのに時間がかかり、武力をもって攻め込んだロシアからウクライナを守るには悠長すぎます。


今回、物資に変えて使われたのが、SWIFTからの排除と外貨準備金の凍結。前者は送金などの機能を止めることで経済制裁として働き、その結果ルーブル安が起こってインフレを誘発します。後者は中央銀行によるルーブルの買い支えを阻止することになるので、通貨下落が止まらなくなるという効果があります。


カネへの制裁に加えて、モノへの制裁も行われることになりました。ロシアへの貨物は欧州の税関でストップがかかり西欧の港からの物資搬入は実質的に困難となっています。米欧日諸国のとった今回の対応は過去に例を見ない強烈な効果を発揮するでしょうが、一方で返り血を浴びることも避けられません。原油やガス、穀物、鉱物などの価格上昇によるインフレ昂進、市場混乱による景気後退等を覚悟しなければならないでしょう。


しかし、そうした犠牲を払ってでもウクライナの主権を守ることを選択した世界の見識は、過去の争いが無駄ばかりではなかったことの証左といえるのではないでしょうか。


ただしこうした制裁は何の罪もない国民にとっては大変な迷惑です。ロシア国内には激しいインフレ、保有通貨の下落、経済の縮小、物資の不足、情報の途絶などを引き起こし、まともな生活を送ることが困難となります。当然のことながら、ウクライナの国民はさらに厳しい命への危機にさらされ続けます。何百万の人々を難民として受け入れているポーランド等の隣国も過剰な負担を耐えねばなりません。


世界経済には、コロナによる供給制約に加えて紛争による供給制約が覆いかぶさることになります。インフレのみならず金融資産下落を始めとする経済停滞リスクが加わるので、スタグフレーション(景気停滞と物価上昇の同時進行)がより現実味をおびてくるでしょう。その行く末は、紛争が早期に収束となるか否かにかかっています。

ロシアへの制裁に歩調を合わせた日本ですが、ウクライナ支援についてはどうでしょうか。西欧諸国とともに日本もウクライナからの難民受け入れ表明を期待したいところです。家族が国内にいるかどうかはこの際関係ないと思います。(もちろん家族がいる人々の受け入れは当然です。)