ぶりの消える日

ぶりは長いこと見なかった変動が発生したときに現れます。特に何年にもわたって発生しなかった歴史的異常事態時に多数のぶりが現れます。ぶりの出現は歴史が繰り返すことの証左でもあります。

中でも世界中を巻き込んで市場を荒らしまわっているぶりがインフレによるもの。米国のインフレ率の高さ(8.6%.2022.6現在)は40年ぶりです。40年前、オイルショックによりインフレ率は10%を超えており、当時FRBのボルカー議長は強烈な金利引き上げを行いました。

現在、パウエル議長もインフレを抑えるのが先決ということで、一挙に政策金利0.75%の利上げを決定しました。通常、利上げ幅は0.25%ずつというのが普通なので如何に現状のインフレリスクを深刻に受け止めているかがわかります。

市場においては、今年の前半期(1~6月)6か月で米国の代表的株価指数S&P500は23%下落し、この下げ幅はなんと52年ぶりとなっています。本年3~6月期は株、債券、原油からビットコインに至るまであらゆるリスク資産が歴史的乱高下に巻き込まれ、米国10年債利回り上昇1.6%は38年ぶり、22円の円安は24年ぶり、逆にドルの強さを表すドル指数は20年ぶりの高さです。

問題のインフレは供給制約から始まりました。コロナ、ロシア制裁への反撃による原油やガス、中国のロックダウンから始まった世界の貿易縮小などです。モノの価格は需要と供給で決まります。この深刻なインフレを抑える為には、供給を増やすか需要を減らすしか方法がありませんが、供給を増やす道筋は複雑で一筋縄ではいきません。

そこで需要を抑える為、まずは金利引き上げということになりますが、急激な引き上げは経済停滞を引き起こします。最近、市場ではリセッション(景気後退)のリスクが取りざたされており、資産価格の下落もリセッションを織り込み始めています。

インフレが収まらず、経済も後退というのは最悪のシナリオです。これを防ぐ方法は経済成長を犠牲にしてでもまずはインフレを抑えることなので、今後も政策金利の引き上げ継続は避けられないと思われます。

しかし困ったことに株、債券、為替など現在の乱高下がインフレによるものなのか、リセッションによるものなのか誰にも判らない状況になっています。直近のデータでは米国の住宅販売は対前年マイナス12%、個人消費も3.1%→1.8%へと大幅下落しているので不動産価格の下落が始まれば、リセッションも本格化が避けられなくなると思われます。

通常インフレに対抗するにはコモディティー指数の買いが有効です。実際、同指数は14年ぶりに29%の上昇を達成しました。しかしリセッションということになると同指数買いによる資産防衛の有効性は一挙に消滅してしまいます。
経済が大きく変動した時に現れる○○年ぶりという表現は、過去に例のない事象が起きた場合には出現しません。歴史的変動という言葉にとって代わられます。ぶりの消える日が近づいているのかもしれません。