ホームレスになった日

時々行く図書館で「今日ホームレスになった」という本を借りてきました。13人のサラリーマンがホームレスになった足跡を書いたものです。履歴も職種も地位も異なるサラリーマンにインタビューした内容をまとめてあります。それぞれ転落に至った経緯もその後の境遇も異なりますが、時期は示し合わせたように1997年~2003年でした。また殆どの人がまさか自分がホームレスになるとは思っていなかったという共通点もあります。


なぜ、この時期に集中してホームレスへの転落を余儀なくされたのでしょうか。1997~2003年とはどのような年であったのか、見てみましょう。(下記参照)
1997年:アジア通貨危機
1997年: 三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券破綻
1998年:ロシア国債デフォルト、LTCM破綻、長期信用銀行破綻 
1999年:大手15行に7.5兆円の公的資金注入 
2001.9: 同時多発テロ 
2003.3: 米軍イラク侵攻 


端的に言うと金融機関の連鎖破綻と、その前後に起きた異常事態が原因。資金の出し手が消滅して、企業の資金繰りが大幅悪化。決済に影響出て金融の機能不全に陥った(システミック・リスク)、という訳です。企業は倒産を回避するため人件費を大幅に削減せざるを得なくなりました。これがこの時期に集中して大リストラが行われた企業側の理由と言えるでしょう。


一方、リストラされた従業員は定期的収入が途絶え、社会情勢も悪化の一途をたどった為、次の仕事も見つからず預金を食いつぶすという状態となります。こうした状況をさらに加速させたのが借金。住宅ローンや、子供の教育費、バブル時の過大な借り入れ等が保有資産を急激に減らし、追い詰められて高金利金融から借りるなどして事態はさらに悪化するという道をたどった人も多数にのぼりました。


日本では過去、大規模な人員整理は行われてきませんでした。企業利益が減った場合、解雇の代わりに給与や賞与の抑制により雇用は守るという、会社と社員が痛みを分かち合うシステムが働いており、また法律も解雇しにくい法制度、裁判制度が実施されてきました。ところが、いよいよ会社が持たないということになったとき雇用維持の慣行が一気に崩れたのです。


これまで従業員の雇用は会社が守ってくれるという前提で働いてきたので、急に解雇という現実を突きつけられたことになります。リストラの洗礼を受けなかった従業員も自分の居場所を守る為に、同僚や先輩、後輩のリストラを強要する立場にまわされ、共に精神的にも大きなダメージを受けざるを得なかったものと思われます。


現在の状況をみていると、1997~2003に状況が似ているという悪い予感がします。しかもそれが世界レベルで発生しています。現在起きていることと当時の共通事象を、年代の順番に沿ってあげてみると(カッコ内に赤字で表示)以下のようになります。
1997年:アジア通貨危機(各国通貨価値下落)、
1997年: 三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券破綻(様々な金融資産を保有する金融機関の破綻リスク懸念
1998年:ロシア国債デフォルト、LTCM破綻、長期信用銀行破綻 
中国巨大不動産会社の債券デフォルト
1999年:大手15行に7.5兆円の公的資金注入 (コロナ対策巨額公的資金注入
2001.9: 同時多発テロ (新型コロナ恐怖、行動制約
2003.3: 米軍イラク侵攻 (ロシア、ウクライナ侵攻


現在までのところリストラの直接原因となった金融機関の破綻は起きていません。しかし
世界の株、債券価値44兆ドル減、世界GDPの半分消失(2022.10.2日経新聞)というとて
つもなく大きな資産下落は、世界のどこかでシステミック・リスクを引き起こしてもおかし
くない状況にあります。


世界中でインフレが進み、急激な金利引き上げを余儀なくされているので早晩、景気後退に
突入します。来年あたりは経済のハードランディングを見ることになるかもしれません。