リスクを負うべきは誰か

住宅を借金して買った場合、住宅価格下落リスクは誰が負っているでしょうか。不動産は高額なので殆どの場合住宅ローンを組んで(借金して)購入します。問題は返済に行き詰まって住宅を売却せざるを得なくなり、借金額より低い価格でしか売れなかった場合、誰が差額を負担するのかというところにあります。


5000万円で買った物件を10年経って売却したら2000万円でしか売れなかったとします。この時点で借入金の残高が3000万円残っていたとすると、差額1000万円は住宅購入者が負担しなければなりません。住む家を失ったのにさらに1000万円の借金が残ったとなれば、次の仕事が直ぐに見つかりでもしなければ自己破産しか選択肢はなくなるでしょう。日本では住宅価格下落リスクは全額購入者が負うことになっています。


米国には物件価格が下がっても、借入金の返済は売却価格に限定される制度があります。3000万円の残債があっても2000万円返済すれば免責されるというもの。ノンリコースローン(non-recourse loan)と呼ばれ、貸し手側が原資の返済を融資対象の資産以外に求めないという融資方法です。債権者が債務者の人的責任を追及しないのでノンリコース(非遡及)と言われ、物件価格下落リスクを負うのは銀行などの貸し手となります。


しかし事の本質は貸し手がリスクを負担しないことにあるのでしょうか。10年保有した住宅価格が3000万円も下落してしまったところにあるのではないでしょうか。もし5000万円で買った物件が10年後も5000万円もしくはそれ以上で売却できるのであれば不動産にまつわる悲惨な状況はずっと少なくなるはずです。


我が国において中古物件価格は年数の経過とともに下落してゆくのが当然と思われていますが、米国の不動産は長期に保有しても購入価格より価格が上がるのが普通のようです。この違いは法定耐用年数や減価償却等、制度の考え方の違いに因るところが大きいと思われます。


例えば米国の木造建築は、27.5年で償却となっており、所有者が変わればその都度27.5年の償却が出来ることになっています。一方日本は22年経過すると4年で償却することになっているので、まだ十分に使用に耐える住宅であっても税務的には物件価値はゼロとみなされてしまうのです。税務上価値ゼロとなれば当然、市場における売買価格に跳ね返るでしょう。その結果10年で資産価値が3000万円も下落するリスクも、住宅の購入者が負っていることになります。


現在(2022.6末)日本の住宅ローン残高は220兆円を超え過去最大規模になっています。一方住宅の資産額は伸び悩み、直近の20年末は前年比で下落。米国もローンが急増し残高は6月末で12兆ドルを突破していますが、それ以上に住宅の資産額の伸び率が大きい、という統計が出ています。(2022.11.6日経新聞)


買った場所の土地代が上昇しない限り不動産価格は下がるなら、住宅物件には住むこと以外の資産価値はないことになります。日本の住宅所有者が負うリスクは、ローン金利の高低だけによるわけではないということです。