SVB破綻

米国の地銀3行が連鎖的に破綻しました。中でもSVB(シリコンバレーバンク)はシリコンバレーにおけるエコシステム(生態系)の金融面での中心的存在であったため、破綻による影響は計り知れないものとなっていたはずです。また同様の銀行破綻が広がればシステミックリスクに発展することも危惧されたため米国政府はFRB、FDIC(連邦預金保険公社)と連携して素早く救済に動き3行の預金は全額保護を打ち出しました。


一番の問題は今後同じような銀行破綻が広がってゆき、リーマンショックのような破壊的事態に陥る恐れはないのかというところにあります。今回の地銀3行破綻の共通項はコロナ下の現金給付で過剰に分配された資金が銀行の預金に集まりながら、その運用にふさわしい額の融資先が確保できていなかったことにあると思われます。スタートアップや暗号資産等は融資による資金ニーズが減少していたことに加え、政策金利の急激な上昇により高騰した貸付金利が借りにくくなっていたからです。


融資先に代わる運用先として当該地銀は米国債やMBS等による運用に頼りました。ところがインフレ対策により金利が上がり続けた為、保有していた債券の価格が下落します。(債券は利回りが上昇すると価格は下落)本来、債券価格は満期まで保有すれば100%の価格で帰ってくることになっています。従ってあえて途中売却する必要のない銀行であれば満期まで持っていれば問題は起きません。ところがSVBは保有する債券の売却を発表した為、含み損が一挙に実現して問題がクローズアップされてしまいました。


預金者の60%がテックやヘルス系の企業であったため、一度銀行が危ないとなると個人が預金者の場合に比べ急激な引き出しが起こるというのも破綻が早まった理由と言えます。今後同様の破綻を防ぐにはどうしたらよいか、なかなか難しい問題ですが、少なくとも銀行の本業である貸付と預金の金利スプレッド(金利差)が十分に確保できており、実質的過小資本に陥っていないことは必要条件と言えるのではないでしょうか。


二番目の問題は今後のシリコンバレーの行く末です。米国の強さの一端がシリコンバレーにあるのは言うまでもありません。これまで当地におけるヒト、カネ、知識、経験等のエコシステムが大きな挑戦を受けてきたことは無かったと思われます。SVBのスポンサーが早く決まるのか予断を許さない状況にあるようなので、エコシステムの一環が不十分なままでこれまでのような運営が継続できるのかが危惧されます。


スタートアップ企業の運営には、テクノロジー等についての深い知識とその分野で様々な経験を積んできたメンター(助言者)となりうる人材が不可欠です。また様々なリスクを乗り越えて上場にこぎつけるまで必要とされる、膨大な資金の供給が欠かせません。従ってスポンサーには資金量の大きさや会計、金融の知識のみならずテック業界等の先行き見極めの能力が問われます。残念ながらそのような銀行は米国にも多くはないと思われます。SVBの破綻は単なる地銀の行き詰まりを遥かに超える一大事として米国の光に影を投げかけています。