トランプは、めくってみなけりゃ判らない

トランプ氏が大統領選に勝利した翌日、朝刊を見ると「今後成長率を現在の2倍に引き上げる」との公約が発表されていました。「アメリカを再び偉大な国にする」というキャンペーン標語は何度も聞いていましたが、「メキシコとの国境に壁を作る」とか「移民を本国に送還する」など荒唐無稽な発言の印象が強すぎて、どのようにアメリカを偉大な国にするのかをまともに聞く気にもならず、本人も語らなかったと思われます。



これまでのところ発表されている具体策は経済政策(貿易を除く)に関してみる限り合理的なので、もっと早く語ってほしかったと思っている人は多かったのではないでしょうか。減税と財政支出で経済を刺激して持続的成長につなげるという施策ですので、ここまで株価が上昇してきたのに不思議はありません。



問題は為替です。選挙期間中トランプ候補は一貫してドルは高すぎると主張してきましたし、金利引き上げを示唆したFRBのイエレン議長をクビにするとまで言っています。しかしながらトランプ氏の施策には大いなる矛盾があります。具体策にある経済政策が奏功し、経済成長の結果インフレ率が上昇すれば米ドルは高くなるのが道理です。実際、現在のところ米ドルはほとんどの国の通貨に対して上昇しています。しかしトランプ氏は米ドルを安くしたいと言っているのです。どのようにその矛盾を解決するのでしょうか。



主たる方法は2つ考えられます。①FRBに圧力をかけて利子率を経済成長率以下に抑え込む。②主要国を集めてドル安、主要国通貨高となるよう誘導する。

いずれも経済的合理性を無視した危険な方法で、結果としてバブルを引き起こす可能性を否定できません。①は米国内にコントロール不能なバブルを発生させる恐れ、②は米国の要求を受け入れた国がバブルに巻き込まれるという可能性です。



②は過去、日本で実際に起きた事実です。1985年レーガン政権が貿易、財政の双子の赤字を解消する為、各国財務大臣を呼んで決定されたプラザ合意。目指したのはドル安でした。当時、日本の当局はこの合意を実行する為円買いドル売りを、米国は金利引き下げを行いました。この結果円高が急激に進み日銀は金利引き下げを継続して行なった為、市場に溢れ出たお金(過剰流動性)が株や土地に流れ込んで異常な高値を形成するバブルが出現したのでした。



本来、輸出が好調で経済が活況なら金利は引き上げられねばなりません。にもかかわらず米国の円高誘導への要請に応じて、逆に金利を引き下げてしまったことがバブルを誘発したというのが歴史の示すところ。その後のバブル崩壊により日本は20年以上にもわたるデフレ経済に苦しむことになりました。他国からの要請に対してどのようなスタンスで臨むのが国益に適うのか、真剣に考えなければならない実例だと思います。



ドル安に関してはもう一点、自己実現的に達成されてしまうケースが考えられます。保護主義に基づく貿易収支の悪化に財政出動による財政悪化の加わった、いわゆる双子の赤字の拡大。現時点でも既にNAFTA見直しやTPPへの不参加表明という保護貿易主義を前面に押し出しているので、やがては自然にドル安とならざるを得ないという見方もできるでしょう。





来年1月にはトランプ大統領が誕生することが決まっています。米国第一主義を掲げるトランプ政権が対外的にどのような(無謀な?)政策を打ち出してくるのか今のところ全くわかりませんが、世界にとっての経済合理性に則ったものであるか否か、この観点から注意深く見守っていかねばならないと思います。