幻想のユーフォリア

米国はインフレが収まりつつあり、消費者物価も日本以下の水準にあります。(6月の物価上昇率は米国3.0%,日本3.3%)金利上昇の心配をする局面ではなくなってきているとみなされ、米国株は絶好調でダウ平均は13週連続の上げ相場を記録しました。


ただ長短金利は相変わらず逆転しており、過去を踏襲するならリセッションに向かうのが普通、なぜそうならないのか不思議ではあります。2年債と10年債の利回りは前者4.76%、後者4.03%と逆イールドになっており、3か月物に至っては5.4%です。(何れも2023.8.4現在)逆イールドは景気後退を市場が懸念していることを示しており、過去においては逆イールドの発生後には市場を大きく揺るがす事態が発生しています。ITバブル崩壊、リーマンショック、コロナショック等です。


景気後退が実現するのは0.5~1.5年後とされており、米国で逆イールドが発生したのは22年4月なので今年の10月までにはリセッション入りの可能性がありますが、今のところそのような気配が見えません。何か、これまでとは異なる要因がリセッション入りを食い止めているのでしょうか。


全世界の人々が3年近くにわたって牢獄のような生活を強いられという経験はかつてなかったことなので、これまでと異なるメンタリティーや行動が生まれても不思議はありません。こうした変化が実体経済に影響を与えこれまでと違う原理が働きだした可能性があります。


コロナ後顕著になっているのはリベンジ消費や、人生を楽しめるうちに楽しみたいというマインドの変化です。こうした情動がサービス産業への需要を膨らませているはずです。加えて自宅で働くことが普通になったことによる労働時間の減少、IT普及による労働生産性の向上等が重なって労働力不足が発生し、その結果賃金の上昇が景気を押し上げるという現象に至っていると考えられます。今後も労働力不足やインフレ鈍化が続くのであれば景気の悪化やリセッションは避けられるのかもしれません。


ただ、金利変動が経済に与える影響はそう簡単に消えてしまうものではないはず。リセッション入りの可能性は消滅したと考えるのは時期尚早ではないでしょうか。足元ではフィッチレーティングによる米国債格下げの影響で10年債の利回りは上昇を始めています。(価格は下落)絶好調を続けてきた株価に冷や水を浴びせる結果となったことを考え合わせるとリセッション入りの可能性は消え去ったと考えるべきではないと思われます。ユーフォリアは幻想、リスクには依然として警戒が必要です。