フレンチ・クオーターの熱い夜

日本国内の音楽ライブ市場は2010年から2015年の5年で約2倍に拡大,(1600億→3400億)2020年以降には座席供給量が不足すると予想されています。(ぴあ総研調査)CD販売が縮小する一方、ライブには多数が足を運ぶというモノからコトへの流れ。

ライブビジネスのこの流れを一層加速させ定着させるには何が必要とされるでしょうか。



言うまでもないことですが、ライブ運営に必要なのは集客力。音楽好きが多数集まってライブ演奏を楽しみ、そこで飲食し、帰りがけにCD等物品を買ってくれれば利益は出ます。問題は2つあり、一つは集客力のあるミュジシャンは限られていること。テレビ等のメディアを通じて知名度の高まったミュジシャンには集客力がありますが運営者にとってはコスト高となり、加えて会場費、宣伝費などのリスクを抱えることになります。もう一つはジャンルがライブ会場によって限定されてしまうこと。殆どのライブハウスはジャンルが決まっており、ジャズライブハウスにビートルズ(そっくりさん)が出演することはなく、ロックのライブハウスで4ビートのジャズが演奏されることもありません。従って客はどんなジャンルを聴きたいのか、だれの演奏を聴きたいのか等を決め、その後出かけて行くという面倒なステップを踏むことになるでしょう。

ちょっと思い立ってライブにでも、と思い立った人のおそらく半数が今日は暑いのでまた今度、雨が降りそうなので次回に等ということになっているのではないかと思われます。



アメリカはミシシッピー州、ニューオリンズのフレンチ・クオーター地区にあるバーボンストリ-ト。このストリートの両側にライブハウスが軒を連ねており、演奏されている音楽はジャズ・R&B・ブルース・POPS等多岐に亘っています。

面白いのはどこも扉が開けっ放しとなっていること。従ってお客は自分の好みの音楽が聞こえているライブハウスに入って音楽を楽しみ、満足したらまた別の店に入るというライブハウス巡りが好きなだけ無料で出来るということです。お客は中で売られているビールを飲んだり、回ってくるバケツにチップを入れたりします。(ビールは有料だが特に高くもなく、チップは小額 でも入れなくとも良い。)空腹を覚えたら同じ通りに何軒もあるオイスターバーやレストラン、ファストフード店など好きなところで食事をして、またライブ巡りに行けば良いのです。

当然お客の滞在時間は長くなるので多額のお金が使われ、世界中から観光客を含む音楽好きが集まってくるので1年中人の波が絶えることがありません。ミュジシャンは耳の肥えたお客を引き付けられるよう切磋琢磨するのでレベルはどんどん高くなり、ストリートの店舗側もミュジシャンも毎日コンスタントに落とされる多額の$によって潤うという仕組み。有名どころの演奏を聞きたければバーボンストリートから少し離れたところにBB KING BLUES CLUBのようなライブハウス(有料)もあります。



地域振興においてヒト・モノ・カネの順番が逆というケースが散見されます。まずカネ(やファンド)を用意し膨大なコストをかけて箱モノを作り、しかる後に集客を図る。ところが往々にして思ったほどヒトが集まらず立派な建物が野ざらしにとなり投資が無駄に終わるというアレです。

バーボンストリートのライブハウスの建物は超豪華とは言いかねるグレードですが、演奏されている音楽レベルは高く、レストランの食事も満足のいくものでした。つまり所謂コンテンツ・ファーストの徹底が多くの顧客を引き寄せるというモデルです。

日本においても、音楽に特化したオトナのスポットとして運営するのに大いに参考になるものと思います。

また世界に発信すれば国内の音楽好きばかりでなくより多くの海外観光客を呼び込め、インバウンド需要を更に大きなものとすることができることでしょう。地域、ミュジシャン、飲食店、ライブハウスの四者全てにとって有益な仕組みたりうるではないか、と熱く思ったフレンチ・クオーターの夜でした。